暗証番号=誕生日、でまかり通る時代はもう終わったのだと思う。
でも私がまだ子供だった頃は、暗証番号と言えば誕生日だった。昔の実家のキャッシュカードの暗証番号だって、母の誕生日そのものだった。そんな単純な番号では不安に駆られるようになったのはいつの頃からだろうか。さすがに今では番号を変えているようだけど、結婚して家を出た私は新しい番号を聞いていないし、聞く必要もないと思っている。
ところが先日、母から電話があり、「新しい暗証番号、あんたに教えてなかったっけ?」と聞いてきた。もちろん私は知らないと答えると、母がため息をつき、「新しい番号に変えたはいいけど、忘れちゃったのよ。お父さんは今仕事中だから電話に出られないし」とほとほと困り果てている様子だった。父には緊急時以外は連絡を取ってはならないルールになっているけれど、早急に振り込まないといけないお金があるとのことで、それは緊急事態なんだからお父さんに連絡してもいいんじゃない?と告げて私は電話を切った。やっぱり母くらいの年齢になると、誕生日とも電話番号とも関係のない数字ではすぐに忘れてしまうのだ。
後日再び母から電話があり、暗証番号を変えたとのことだった。結局知り合いの人の誕生日を暗証番号にしたそうだ。「まあ、適当な暗証番号にすると忘れちゃうから、結局は誕生日とかにしちゃうよね。ところで誰の誕生日なの?」と母に聞くと、何と母の初恋の人の誕生日だそうだ。半世紀以上経っても初恋の人の誕生日を覚えている母に驚きながらも、もし番号を忘れても、もうお父さんには聞けないね、と言って母と二人笑いあったのだった。